私の背には石榴の実が生ります。
このことは絶対に内緒です。
あの人以外には。
満員電車には乗りませんし、座席にも座りません。
肩甲骨の隙間から顔を覗かせた実が潰れてしまっては大変だから。
人がたくさん集まる場所、街にも行きません。
「果物は腐る寸前が一番美味しい」と云うので、あの人に食べて貰えるよう、傷ひとつ、汚れひとつつけずに大事に育てていくのです。
毎晩、彼は私の衣服を脱がせ、確認をします。
一粒、一粒、丁寧に指で果肉を撫でられるは気持ちよく、とろりとします。
そんなにも愛情を込めてもらえるものがある自分の背中を見ることができないのは歯がゆい。
けれど、息を多めに含んだ囁き声で「ルビーみたいで本当に綺麗」と言ってもらえるのはとても嬉しく、私はますますとろりとしてしまうのです。
ひとつだけ辛いことがあるとすれば、それは朝でしょうか。
朝日を浴びると同時に、左右の肩甲骨の間の肉が少しずつ割れ、ルビーのような果肉が盛り上がって顔を覗かせるのです。
そのときに皮膚が引っ張られ裂けるので、血が出ます。その痛みが神経を駆け抜けてゆく瞬間の辛さだけは、言葉にしようがありません。
けれど石榴とはこうして熟れてゆくものなのだと教えられたので、仕方がないのでしょう。
めりめりと音を立て、今日も私の背中は裂けてゆきます。
そこからは朝の光の中で果肉が、冷たい外気に震えるように、しかし美しく煌いて顔を出しているに違いありません。
もう大分熟してきていて、裂け目はもうすぐ私の肺や心臓の深さまで到達します。
最近では歩くだけでも何かの拍子に骨に触れて潰れ、果汁がじわりと私の背骨を濡らす気配に体をびくりとさせることもしばしばです。
あの人はいつ、私を食べてくれるのでしょうか。
痛みに耐えている最中、そんな日は永遠に来ないような不安にふと襲われ、血の気が引くような思いをします。
実は彼は、本当は腐って、おぞましい臭いをさせながら私の体が蝕まれ、七転八倒の苦しみに苛まれる姿をこそ楽しみにしているのではないかと。
背中の石榴が熟れるのと比例して、果汁と血液とが混ざり合った非道く猟奇的な空気が濃く臭い立つので、余計、そんな不安が私を包み込むのでしょう。
「あ。」
そうこうしているうちにまた、果肉が弾けました。
体の真ん中、腰骨の辺り…ああ、脊髄でしょうか。そこを濡らす冷たい気配が、私に身震いをさせます。
あの人の唇から、真っ赤な私の体液が零れるとき、私は一体どうしているのか。どうなってしまうのか。
そのときを想像しながら私は、今日も花火の導火線を焦がすような痛みに耐えています。