家のそばにある小学校のプール
夏の面影もとうに失せたのに
夜ごと濃くなるカルキの匂いに酔っている
見上げた黒曜石の空を霞ませるのは
いつか枯れ果て刈られたペパーミントの魂
木枯らしにまだ早いこの頃の空気がやけに冷たいのは
きっと彼らの仕業
殺意のように鋭く透る月明かりの下
もう少しだけ目を凝らせば ほら
この世界の愛が浮かび上がる
それは何より深く絶対だけど
無限に連なる炭素結合に祝福された硬度を持ち
永遠に融けない氷河の強さを恵まれたので
生きとし生ける何者にも届かない
ただひたすらに一方通行の
しかしすべてに等しく絶えることのない愛
だから大丈夫なのです
この唇からいくつ 他人を求める唄が零れても
応える声のないことが不幸ではないと知っている
そうしてきちんと完結しているので
あなたのことなど必要ないのです
不意に訪う のは 忍び寄る雨雲
不意に蘇る のは 憧れの亡霊
つかの間 交わる夢はどろりと温く
手を伸ばすそばから腐り出す
一瞬の躊躇 のち もがく
一瞬の暗闇 のち 月夜を侵す涙雨
家のそばにある小学校のプール
その水面を雨粒が粉々にする
そうしてまたいっそう濃く匂い出すクロルカルキ
私の妄想を消毒して
もっともっと 息もできぬほど
白日の下 曝け出される孤独に劣らぬ私でいられるように
もっともっと 世界の愛が消えぬよう